大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福島地方裁判所 昭和28年(行)7号 判決

原告 大森達夫

被告 郡山税務署長・国

主文

原告の被告税務署長に対する訴を却下する。

原告の被告国に対する請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「(一)被告郡山税務署長が、原告に対し昭和二十三年六月十六日にした財産税課税価格更正決定(課税価格三百四万六千二百七十九円)及び昭和二十六年六月十四日にした財産税課税価格更正決定(課税価格三百四万六千二百七十九円)を取消す。(二)被告国は原告に対し金三百五十三万八千五百七十二円九十銭及びこれに対する昭和二十三年十二月十七日以降同二十五年三月三十一日まで日歩十銭の割合による金員同年四月一日以降完済まで日歩四銭の割合による金員を支払え。(三)訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決並びに請求の趣旨第二項につき担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

(1)  原告は財産税法の規定により、財産税納付義務者として、昭和二十二年二月十五日及び同年同月二十日財産税課税価格等申告書(課税価格五十九万四千五百九十八円、明細は別表第一記載)を被告税務署長に提出し、これに基いて同被告は同年同月二十七日附の納税通知(税額二十七万七千四百八十八円五十銭)をしたので、原告は右税額を納入した。

(2)  同被告は原告に対し、同年十二月二十七日財産税法第四十六条第一項に基いて前記課税価格を二百八十二万三千三百七十九円と更正(以下第一回更正決定と称する。)した。これによると、その課税価格中申告外の増加部分は別表第二記載のとおりである。

(3)  原告は右更正に異議があるので同法第五十一条、同法施行規則第七十九条第二項により、昭和二十三年一月十四日仙台国税局長(昭和二十四年六月一日前は仙台財務局長、以下国税局長と称する。)に対し審査の請求(以下第一回審査請求と称する。)をした。

(4)  ところが同被告は同年六月十一日第一回更正決定を取消し、同月十六日同法第四十六条第四項により再更正(以下第二回更正決定と称する。)をして原告に通知した。これによると、その課税価格は三百四万六千二百七十九円で、申告外の増加部分は別表第三記載のとおりである。

(5)  原告は右第二回更正決定に異議があるので、国税局長に対し、同年七月十一日審査の請求(以下第二回審査請求と称する。)をしたが、これに対し決定がなく、かえつて被告税務署長は原告の不動産等を差押えたので、原告は国税局長に対し審査決定方催告したところ、同年十二月二日同局長から原告に対し、「本件については郡山税務署長から原告を告発した趣につき、同事件解決後審査委員会に附議して決定の見込であるから了知されたい。」旨の通知があつたので、原告はその結果を待たざるをえなかつた。

(6)  原告は被告税務署長の右財産税法違反告発事件により、同年同月八日から同月十八日まで身柄拘束の上福島地方検察庁郡山支部の取調を受けたので、原告方家族の心配一方ならず、原告の妻春江は一まず税金を納入した方がよいと考え、原告の拘束中である同月十六日、原告の意に反して別表第四記載のとおり第二回更正による税額、延滞金、手数料等合計三百五十三万八千五百七十二円九十銭を全額納入してしまつた。

(7)  原告は右財産税法違反事件につき昭和二十四年一月二十七日福島地方裁判所郡山支部に起訴されたが、起訴状によると遺脱課税価格の明細は別表第五記載のとおりである。

(8)  右被告事件につき、審理の結果、昭和二十五年十月十七日原告は同裁判所支部から犯罪の証明がないとして無罪の判決を受けたが、検事控訴により右被告事件は仙台高等裁判所に係属するに至つた。

(9)  原告は昭和二十六年二月二十八日被告税務署長に対し、右第一審判決があつたことを通知して前記課税価格の更正を促した。

(10)  すると同被告は同年六月一日前記第二回更正決定につき五十万円の減額訂正(課税価格中原告の日本電興株式会社に対する貸付金債権五十万円を除外した)をした。ところが、同月十四日同被告は再び前記五十万円の債権を加え課税価格を三百四万六千二百七十九円と更正(以下第三回更正決定と称する。)し、同日その公告をした。その内容は別表第六のとおりである。

(11)  原告は右第三回更正決定に異議があるので同年七月六日国税局長に対し審査の請求(以下第三回審査請求と称する。)をした。

(12)  国税局長はこれに対し同年八月十日「財産税価格三百一万二千三十八円―昭和二十六年七月六日附提出に係る財産税課税価格再更正に対する審査請求について右のとおり決定したから通知する。」との審査決定を公告した。

(13)  ところで仙台高等裁判所に係属中の原告に対する前記被告事件は昭和二十七年五月十七日、同裁判所から、同年四月二十八日政令第百十七号大赦令第一条第十八号により大赦があつたとの理由で、免訴の判決を受け、右判決は確定した。

(14)  右判決の確定によつて、前記第二回審査請求につき国税局長がした通知中の「告発事件解決」に至つたものであるから原告は改めて同局長に対し同年九月一日審査の請求(以下第四回審査請求と称する。)をしたが未だにその決定がない。

(15)  ところで本件財産税課税価格は前記(1)記載の申告課税価格(五十九万四千五百九十八円)が相当であつて、被告税務署長がした第二、三回更正決定は存在しない物件を課税対象とし、あるいは存在するとしても不当に高く見積つた違法な決定である。のみならず第三回更正決定は財産税調査委員会に附議していない違法な決定である。そして原告が右第二回更正決定に基いて昭和二十三年十二月十六日国庫に納入した三百五十三万八千五百七十二円九十銭は被告国において不当に利得したものであつて、同被告はこれを原告に返還すべき義務がある。

(16)  第二回更正決定に対する審査請求に対しては裁決(決定は未だ受けていない。また第三回更正決定に対する審査請求に対しては前記(12)記載の審査決定があつたけれども、同決定には理由が全然附記されていないから無効のものであり、結局審査決定はなかつたことに帰着する。しかし、本件は財産税法第五十四条に基き訴願裁決を経ないで出訴しうるのである。かりにそうでないとしても、以上述べた本件の経過、事情からみて、行政事件訴訟特例法(以下特例法という。)第二条但書にいう正当事由があると考える。また出訴期間については、本訴は国税徴収法第三十一条ノ四第三項により提起したものであるから適法であり、又特例法第五条第三項但書にいう正当事由もあるのである。

(17)  そこで被告税務署長に対し、第二、三回更正決定の取消を求めるとともに、訴告国に対し、三百五十三万八千五百七十二円九十銭及びこれに対する納入の翌日である昭和二十三年十二月十七日以降、同二十五年三月三十一日まで国税徴収法所定利率である日歩十銭の割合、同年四月一日以降完済まで同法(同日改正)所定利率である日歩四銭の割合による損害金の支払を求めるため本訴請求に及んだと述べた。

被告税務署長の本案前の抗弁に対する答弁として次のとおり述べた。

(1)の抗弁事実は否認する。もつとも昭和二十三年十二月十六日附で第二回審査請求の取下書が国税局長ならびに被告税務署長あてに提出されたことはあるが、

(イ)  これは原告の妻大森春江と弁護士桑名邦雄(原告の前記被告事件の弁護人)が原告の意思に反し勝手に作成提出したもので無効のものである。すなわち〈1〉第二回審査請求については原告は代理人に委任せず、請求書にも原告が自ら押印した。〈2〉ところが原告は前記のように財産の差押を受け、次いで身柄の拘束を受けたので、これに驚いた原告の妻は、勝手に前記弁護人桑名邦雄(審査請求事件の代理人ではない)に対し、更正税額の納入ならびに右審査請求取下の手続を依頼したので、桑名は原告に無断で取下書を作成して原告の記名押印をなし、桑名も代理人と称して連署押印をして提出したのである。〈3〉原告は勾留中全面的に否認し、妥協の意思はなかつたし、国税局長も告発事件解決後審査するとのことであつたから原告もそのつもりであつた。さような事実から考えても、右取下は全く原告の意思に反するものであることが明かである。

(ロ)  仮に桑名が原告の意思により右取下をしたとしても、右取下については、被告税務署長と桑名との間に「審査請求を取下げれば同被告も告発を取消す」との約束が成立していたので、原告は告発の取消を信じて取下げたのである。しかし同被告は告発を取消さず原告が起訴されたことは前記のとおりである。従つて右取下はその要素に錯誤があり、無効である。

次に第二回審査請求に対する国税局長の「告発事件解決後審査委員会に附議して決定する」旨の通知には法律上の効果があるのであつて、原告は右通知に基き告発事件解決後第四回審査請求をしたが、その決定を得られないのである。第二回更正決定に対し裁決前本訴を提起することの適法なことは、前記の通りである。

(2)の抗弁事実も否認する。第三回更正決定に対する本訴請求が適法なことは前記の通りである。と述べた。

(立証省略)

被告税務署長は本案前の答弁として、主文第一、三項と同旨の判決を求め、本案前の抗弁として次のとおり述べた。

(1)  第二回更正決定の取消を求める部分について。

右訴は、特例法第二条に反し訴願裁決(審査決定)を経ないで提起されたもので、不適法である。すなわち原告は一旦昭和二十三年七月十一日国税局長に対し第二回更正決定に対する審査請求をしたけれども、同年十二月十六日これを取下げた。その経過は、右審査請求事件につき一切原告から委任されていた弁護士桑名邦雄は郡山拘置所に勾留中の原告と面会打合せをした結果、取下げることになり、桑名が原告の意思に基いて、第二回更正決定に対応する税額を国庫に納入した上、第二回審査請求を取下げたものである。なお原告主張の同年十二月二日国税局長のした「告発事件解決後審査委員会に附議して決定する」旨の通知は法律上何の効果もなく、仮に何等かの効果があるとしても、原告は前記のとおり右通知後である同月十六日に審査請求を取下げたのであるから、そのような効果も亦消滅した。従つてまた原告主張の第四回審査請求は期間経過後の不適法なものである。

(2)  第三回更正決定の取消を求める部分について。

右訴は、特例法第五条所定の出訴期間経過後提起されたもので、不適法である。すなわち、右更正決定に対しては原告主張の通り昭和二十六年七月六日審査請求があり、これに対し同年八月十日審査決定の公告があつたので、本訴(昭和二十八年六月三十日提起)は出訴期間を経過していること明かである。右審査決定に理由の附記されていないことは原告主張のとおりであるが、財産税法によれば右決定に理由を附記することは要件とされていないから、右決定を以て違法または無効ということはできない。と述べ、

被告の抗弁に対する原告の主張事実中、被告税務署長と原告との間に「審査請求を取下げれば告発を取消す」旨の約束があつたとの点、右審査請求の取下に要素の錯誤があつたとの点は、否認すると述べ、

本案につき被告等は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、請求原因事実中(1)乃至(5)の事実、第(6)のうち原告が第二回更正決定に基く税額を全額納入した事実、(7)乃至(14)の事実は認める。但し(11)記載の第三回審査請求は、第二回ならびに第三回更正決定に対するものであるが、前者に対する分は、期間経過後の不適法なものであり、従つて(12)の審査決定は、第三回更正決定に対してなしたものである(もつとも客観的には第二回更正決定に対する判断も含まれているといえる。)(14)記載の第四回審査請求なるものは適法な審査請求でないこと前記の通りである。(6)の事実中前記全額納入したとの点を除きその余の事実は不知である。右以外の主張事実はすべて否認する、なお第三回更正決定については昭和二十六年六月一日財産税法の改正により審査委員会に附議する必要がなくなつた。と述べた。(立証省略)

理由

一、第二回更正決定の取消の請求について。

(1)  原告は、第二回更正決定は昭和二十六年六月一日被告税務署長から五十万円の減額訂正処分(原告の日本電興株式会社に対する五十万円の貸金債権の除外)を受けたと主張するのであつて、減額訂正処分は当初の更正決定と一体をなし、その減額部分については当初から更正決定がなかつたことになると解すべきである。従つて原告の主張自体によつて、第二回更正決定のうち右部分の取消を求める利益はないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴中当該部分は却下されるべきものである。

(2)  原告がその主張のように財産税課税価格の申告をしたこと、これに対し昭和二十二年十二月二十七日被告税務署長が財産税法第四十六条第一項により課税価格を二百八十二万三千三百七十九円とする第一回更正決定をしたこと、原告はこれに対し昭和二十三年一月十四日同法第五十一条、同法施行規則第七十九条第二項により国税局長に第一回審査請求をしたこと、ところが同被告は同年六月十一日第一回更正決定を取消し、同月十六日同法第四十六条第四項により課税価格を三百四万六千二百七十九円とする第二回更正決定をしたこと、原告はこれに対し同年七月十一日国税局長に第二回審査請求をしたこと、は当事者間に争がない。

(イ)  被告税務署長は、原告において右審査請求を取下げたから本訴は訴願裁決を経ない不適法なものと主張するので、この点につき考える。乙第一号証の存在と証人佐藤佐久治郎の証言を総合すれば、昭和二十三年十二月十六日、原告ならびにその代理人と称する桑名邦雄の連名で、国税局長と被告税務署長あての第二回審査請求取下書(乙第一号証)が、当時の被告税務署長佐藤佐久治郎に提出、受理されたことが認められるが、証人桑名邦雄、同大森春江の各証言と原告本人尋問の結果を総合すると、右取下書の原告の記名は右桑名が記載し、その押印は原告の妻大森春江がなしたものであり、これに桑名が代理人として連署したものであることが認められる。そこで右取下書の作成提出が原告の意思によるものであるかどうかをみると、

〈1〉成立に争のない甲第十一、十二号証によれば、弁護士桑名邦雄は昭和二十三年十一月十五日および同月二十四日、原告の代理人として原告と連署のうえ国税局長に対し第二回審査請求につき早期の決定を要望した事実が認められるし、証人佐藤佐久治郎の証言によれば右桑名は取下書提出以前から原告の財産税につき原告の代理人として文書及び口頭で被告税務署長に意見を開陳した事実が認められる。そのような事情から推測すれば同人が右審査請求事件につき原告から代理権を与えられていたことが認定できる。証人桑名の証言、原告本人の供述中右認定に反する部分は採用しない。〈2〉原告が被告税務署長の告発により、本件財産税につき脱税容疑で同年十二月八日から同月十八日まで身柄を拘束され、福島地方検察庁郡山支部の取調を受けたことは当事者間に争ない。そして証人桑名、同大森の各証言と成立に争ない甲第三十一号証を総合すると、原告が身柄拘束を受けるや、桑名は原告の妻大森春江から善後策として第二回更正決定額を全部納入するよう取計いならびに金策を依頼され、なお同月十三日には原告の弁護人に選任され、原告のために種々奔走したこと、そして金策もできたので、同月十六日桑名が手続をして第二回更正決定による税額、延滞金等合計三百五十三万八千五百七十二円九十銭という大金を全額納入し(納入の事実は当事者間に争ない。)、それと同時に前記審査請求取下書を提出したこと、が認められる。〈3〉成立に争ない乙第三号証によれば、原告は接見禁止を受けていたが、桑名は同年十二月十三日弁護人として検事の許可を受けた上郡山の拘置所で原告と接見し、その時間は一時間四十分にわたつたこと、その際桑名は本件財産税について示談することを勧めたこと、これに対し原告は同弁護人に謝礼の言葉を述べたこと、が認められる。〈4〉証人佐藤佐久治郎の証言によれば、原告は身柄釈放直後、被告税務署長であつた右佐藤を訪問し、簡単な挨拶を述べて帰つたことが認められる。

以上の事実を総合して判断すれば、原告は桑名と接見の際、同人の勧告により前記税額の納入ならびに第二回審査請求の取下に同意し、この原告の意思に基いて桑名が右税額納入ならびに前記取下書の作成、提出の手続をとつたものであると認めるのが相当である。証人桑名、同大森の各証言と原告本人の供述中、この認定に反する部分は採用しえない。また本件弁論の全趣旨によれば、原告は右違反事件で福島地方裁判所郡山支部に起訴後、公訴事実を争い、審理に長期間を要した事実がうかがわれるが、それは前記取下後の事情にすぎず、前認定をくつがえすものではない。

(ロ)  原告は審査請求の取下につき要素の錯誤があつたと主張し、証人桑名邦雄、同大森春江の各証言によれば、桑名が右審査請求取下書を提出して第二回更正決定に基く税額を納入するについて、佐藤署長は原告に係る財産税法違反被疑事件の解決につき努力する旨、桑名に約束したことが認められる。(原告は佐藤が告発の取消を約束したと主張し、証人桑名の証言中これに添う部分があるが証人佐藤佐久治郎の証言と対比して採用しがたい。また証人佐藤の証言中前記認定に反する部分は採用しない。)しかし右約束は漠然たる、また好意的なものにすぎないから、原告がそのような約束を信じて審査の請求を取下げたとしても、それは取下の縁由にすぎないというべきである。そうすると右取下が錯誤により無効であるという原告の主張は失当である。

従つて第二回審査請求は取下によりその効力を失つたわけである。

(ハ)  国税局長が昭和二十三年十二月二日第二回審査請求につき原告主張の「告発事件解決後決定する」旨の通知を原告に発したことは当事者間に争がない。しかし原告が右回答後審査請求を取下げたことは前示のとおりであるから、右通知もまたその意味を失つたことは明らかである。従つて原告が第二回更正決定に対し昭和二十七年九月一日にした第四回審査請求は右通知となんら関連のあるものではなく、期間(更正決定通知後一ケ月)経過後の不適法なものであることが明らかである。

(ニ)  又後記認定の第三回審査請求がかりに第二回更正決定に対する趣旨を含むものとしても、これも期間経過後のものである。そうすると原告は昭和二十二年法律第七十五号「日本国憲法の施行に伴う民事訴訟法の応急的措置に関する法律」第八条により、第二回更正決定の通知を受けた昭和二十三年六月十六日から六ケ月以内に本訴を提起するべきものであつた。もつとも同年七月十五日特例法が施行され、その附則第二項により本件は同法の適用を受けることになつたが、右六ケ月の期間には変更なく、一方同法第二条所定の不服の申立に対する裁決を経由することを要することになつたが右審査請求の取下により、その条件の具備されていないことは前示のとおりである。そして前認定の事情の下において同条但書所定の正当事由を具備するとは到底認められない。(なお本件については訴願前置を要しないとの原告主張の理由のないこと明らかである。)結局第二回更正決定中前記五十万円の減額訂正部分を除いた部分に対する請求も不適法であるから、原告の本訴中当該部分は却下を免れない。

二、第三回更正決定の取消の請求について。

被告税務署長が昭和二十六年六月一日第二回更正決定につき五十万円の減額訂正をしたこと、同年同月十四日再び五十万円を増額して課税価格三百四万六千二百七十九円の第三回更正決定を公告したこと、右更正決定に対し原告が同年七月六日国税局長に対し第三回審査請求をし、同局長が同年八月十日請求原因(12)記載の審査決定を公告したことは当事者間に争がない。(第三回更正決定が単に五十万円増額したのにすぎないか、全額につき新たな決定をしたのかはしばらくおく。)原告は右審査決定には理由の附記がないから無効だと主張するが、財産税法による審査決定に理由を附記しなければならず、これがなければ決定が無効であるという根拠はどこにもない。国税徴収法第三十一条ノ三第五項(昭和二十五年三月三十一日法律第六十九号による改正後のもの)には、審査決定に理由の附記を要する条項があるが、財産税法第五十一条ないし第五十四条が本件審査決定当時まだ存在している(同年十一月二十六日法律二百六十三号により廃止)ので、本件の場合これによるべきで、前記国税徴収法第三十一条ノ三の適用はないのである(同法第三十一条の二第一項、第一条)。それゆえ右決定には何等原告主張の違法はなく、有効である。

そうすると原告は特例法第五条第一項第四項により右審査決定の送達があつたとみなされる昭和二十六年八月十七日(成立に争ない甲第二十号証によれば原告が決定の受領を拒んだので国税徴収法第四条ノ十により公告したものと認められ、この場合公告の初日から七日後送達があつたとみなされる)から六ケ月以内に本訴を提起すべきものであつた。この場合特例法第五条第三項但書は適用がない。従つて第三回更正決定に対する本訴(昭和二十八年六月三十日提起)は出訴期間経過後のもので不適法であるから本訴中当該部分は却下すべきものである。(原告主張のように本訴が国税徴収法第三十一条ノ四に基くものであるとしても、その要件も具備せず、出訴期間も徒過している。)

結局原告の被告税務署長に対する訴はいずれも却下すべきものである。

三、被告国に対する請求について。

右第二、三回更正決定の取消されることを前提として、右決定に基いて原告が納付した税額の返還を求めるのは失当であること明らかであるからその余の事実について判断するまでもなく棄却すべきものである。

そこで訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤規矩三 小堀勇 松田富士也)

(別表省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例